子は親の鏡~面談・前編

先月、お母さんに連れられてここを訪れた高校1年生のきーちゃん。
半年前から過食とうつ状態になり、4月からは学校に行けなくなったということで、
いさどんと相談するために訪れました。
そして2度目の訪問となる今回は、到着してから食事も摂らず、ずっと寝ていたきーちゃん。
そしてお父さんがお迎えに来る前に、お母さんと一緒に再びいさどんと面談する場が持たれました。

いさどん:
きーちゃんの体調はどうですか?どこか、内科的に悪いところはありますか?

お母さん:
今、学校に行っていないので、学校から病院で健康診断を受けるように言われ、
先日病院に行ってきたんですね。内科と尿検査の結果は大丈夫でした。

いさどん:
ちょっと顔がむくんでいるようだけれど、それはどこから来ているのかな?

きーちゃん:
寝過ぎだと思う。

いさどん:
寝過ぎかあ(笑)。それはあるよね。

お母さん:
昼夜逆転した生活をしているのと、食生活の乱れもあると思います。
夜から朝方までずっと食べているんですね。
自分が買ってきたスナックやスープ、お豆腐などを食べています。

いさどん:
そういう添加物の影響が出ているのかもしれませんね。

お母さん:
そうですね。ちょっと前はスープを飲む時に大量の塩を入れていて、もっと顔が膨れていたんですね。
でも、本人の自覚で「塩分を入れ過ぎだったからもうやめる」と言って、今はやめています。

いさどん:
いつ頃から昼夜逆転の生活になったんですか?

お母さん:
ここ2週間くらいですかね。きーちゃんは、長女のゆうが帰ってくるのを待っているんです。
長女と話をしたいんですね。

いさどん:
ゆうちゃんは何をされているんですか?

お母さん:
大学生です。授業が終わった後はアルバイトをしたり、ボランティアをしたりしていて、
帰ってくるのが夜遅くなることもありますね。
そうすると、きーちゃんは長女とゆっくり話がしたいということで、
長女が帰ってくるのを待つようになりました。

きーちゃん:
帰ってきてもパソコンをやったりして、あまり話せなくて、ずっと待っていると夜遅くなっちゃう。。。

いさどん
ということは、ゆうちゃんも夜遅くまで起きているの?

お母さん:
ゆうは遅くても9時か10時には帰ってきて、それからご飯を食べたり、自分の宿題をしています。
話せる時は話すけれど、話さず寝てしまうこともありますね。

いさどん:
そうすると、きーちゃんが待っているといっても深夜まで待つというわけではないんですね。

きーちゃん:
ゆうちゃんと話せないと、パパでいいから話しがしたい。。。

お母さん:
父親も夜遅く帰ってきます。その後テレビを観たりして夜ずっと起きているんですね。
きーちゃんとゆうが話をしているところに父親が入ったりして、3人とも、夜寝るのが遅いんですね。
ゆうが自分の寝る時間になったら寝に行って、きーちゃんと父親になっても起きています。

いさどん:
お父さんは夜遅くまで起きているの?
それはきーちゃんに付き合ってくれているということなのかな?
それともお父さんの都合で起きているのかな?

きーちゃん:
パパはパソコンでチャットをしたりしている。遅いと4時くらいまで起きている。

いさどん:
でも、次の日は仕事があるんだよね?

お母さん:
次の日は朝出勤するのが遅かったり、色々なんですけれど。

いさどん:
そういうふうでもいい仕事をしているんですね。

きーちゃん:
うん。夕方は誰とも話せないし。

いさどん:
それは、お母さんが働いているから?

きーちゃん:
夜の9時まで仕事。

いさどん:
結構遅いね。

きーちゃん:
みんな帰ってくるのが遅くて。
2番目のお姉ちゃんのりっちゃんもどこかに行っちゃったりして、話せなくて。

いさどん:
りっちゃんは何時頃に帰ってくるの?

きーちゃん:
その時によって違うけど、すぐどこかに行っちゃうし話さない。

いさどん:
きーちゃんは今、学校に行っていないから家にいるんだよね。
朝起きる時間は何時頃になるの?

お母さん:
夕方の4時くらいですね。

いさどん:
完全にこうもり生活だね(笑)。
そうすると、毎日きーちゃんがどういうことをしているのかということを、
お母さんはなかなか一緒にいられないから把握出来ない状況ですね。

お母さん:
そうですね。夕方起きてきて、ふらっとお買い物に行ったり。
結局、時間を持て余して、みんなが帰ってくるのを待っているという感じですね。
長女と話をしたいから、それを口実に待っているという感じです。

きーちゃん:
暇があったら遊びに行っちゃうし。帰ってきてもずっとパソコンをしているから。

お母さん:
だから、きーちゃんの相手ばかりはしていないということだよね。

いさどん:
なるほど。ちょっと寂しいね。我慢しているということだ。
それで、学校の話を聞くけれど、中学3年の時に友達関係がちょっとまずくなったんだよね。
その前はどうだったのかな?

きーちゃん:
中2の時は一番良かった。仲の良い子もいたし。

いさどん:
その子とは中3の時はどうだったの?

きーちゃん:
上手くいかなくなっちゃった。

いさどん:
中学2年までは、自分でもそんなに問題がなかったと思っている?

きーちゃん:
色々なことがあったけれど、平気だった。

いさどん:
きーちゃんのことは大体わかってきました。
次に、お父さんとお母さんの関係について伺いたいと思います。
二人の関係はちょっと問題だと思うのですが、いつ頃からそうなったのでしょうか?

お母さん:
長いと思います。

いさどん:
この夫婦の関係ですと、子供さんに問題が起きるケースが多いです。
ちょっと立ち入ったことを聞きますが、今、感情的にはどういう関係なんですか?
夫婦関係のアンバランスが子供さんに出ているケースですが、
どの子に出るのかまではわからないものです。
病気でも皮膚に出たり内蔵に出たり、どちらかと言うと弱いところに出てきますからね。

きーちゃん:
パパもママも心配してくれているのはわかるし、「みんな平等」と言うけれど、
ゆうちゃんと話しているのは、「りっちゃんがえこひいきされているよね」ということ。
昔からだけれど、りっちゃんだけすごく褒められたり、優しくされたり、
嫌なことがあっても八つ当たりされなかったり。

いさどん:
八つ当たりするのは誰?

きーちゃん:
ママ。

いさどん:
そうか(笑)。そうすると、八つ当たりはりっちゃんにはしないけれど、
ゆうちゃんときーちゃんにはするということか。
他には何かある?

きーちゃん:
パパはいつも心配してくれるけれど、
「お父さんの言うことを聞いていれば良くなるんだ」と言うだけで、私の話を聞いてくれない。
昔から、子供会のくじで当たって引出しに入れておいたお菓子を取ったり、リモコンとかでぶってきたり。

いさどん:
それは何で?

きーちゃん:
向こうは遊んでいるつもりでも、辛くて。まわりも止めてくれなくて。

いさどん:
お父さんとしては子どもと遊んでいるつもりなのかな?
ちょっと相手の感情が読めないのかな?

お母さん:
きーちゃんが一番下でかわいいから、可愛がっていて、一緒に遊んでいるような気持ちなんでしょうね。

いさどん:
でも、本人がこういうことを言っているということは、
そのデリケートな部分を読めていないということですよね。

お母さん:
きーちゃんが「やめてよ」と言っても、「楽しいんだろうな」と思っているんでしょうね。

きーちゃん:
力づくでやってくる。私が3食食べていても、
「ご飯を捨てていたんだろう」と言ってくるし、どこに捨てたのか探してくるし。

いさどん:
でもそれって、どこかに捨てたわけではないんだよね?
食べていないと疑っているということは、
きーちゃんがご飯を食べていない時期があったからということなのかな?

お母さん:
自分本位な食べ方をしているから、それに対して言っているんだと思います。

きーちゃん:
パパは、お腹が空いた時に私がお菓子をあげないと、すごく機嫌が悪くなって、
ガンガン物を言ってきて恐い。パパもママも恐い。

いさどん:
恐いけど、でもいないと寂しいでしょ?大切なのはそこだよね。
夫婦関係ではどちらかがしっかりと柱になり、もう片方がそれを支え、
二人三脚のように家庭を築いていくことが必要なのですが、それが出来ていません。
お二人はずっと共働きなんですか?

お母さん:
そうですね。

いさどん:
それはどうしてですか?お父さんの収入が多くないということですか?

お母さん:
夫としては、「子供が生まれるまでは家で働き、
家のことと仕事と両方出来るのであればいいんじゃない?」という感じでした。
それで、家で子供に英語を教える仕事を始めました。

いさどん:
良い仕事じゃないですか。

お母さん:
それから、ゆうが生まれ、りっちゃんが生まれました。
仕事をしている間は、最初はおじいちゃんやおばあちゃんに見てもらい、
ダメな時はベビーシッターに来てもらっていました。
でも、きーちゃんが生まれた時には限界を感じ、
「自分の子を育てなきゃ」と思って仕事をやめたんですね。
だから、生活のために仕事を始めたというよりは、生きがいのためという方が近いですね。
子供たちが大きくなってから、また仕事を再開しました。

もともと私たちはアメリカに渡るために結婚したんです。
アメリカで知り合った知人と日本食レストランを出そうと思っていました。
ワーキングビザを取得するためには、
結婚している方が不法移入と受け取られず、取得しやすいと思いまして。

いさどん:
結婚する前は、結婚を前提として長い間付き合っていたんですか?

お母さん:
5年くらい付き合っていました。
でも、結局ビザが下りず、夫は日本で就職することになりました。
それで、私は家で英語教室を持ち、3時頃から9時まで英語を教えるようになりました。

いさどん:
そうすると、お母さんは家にいるんだけれど、きーちゃんの相手は出来ないということですね。

きーちゃん:
その間はテレビも観られないし、うるさくも出来ない

いさどん:
それは教室に影響するからということ?

お母さん:
ドアを閉めてしまえばいいんですけれど。

いさどん:
でもそうすると、封鎖されてしまって寂しいということかな。
寂しくなければテレビがなくても大丈夫だと思うけどね。
でも、今はやることはないし、寂しいということかな。

お母さん:
夫は今、フランチャイズ店のオーナーをしています。
夫は次男なんですが、長男が夫の父の不動産を引き継いだんですね。
おじいさんの代までは不動産の賃貸をしていたのですが、
お兄さんの代になってからはそれを会社にして経営するようになりました。
夫はフードサービスの会社を立ち上げ、
社長は多分お兄さんかおじいさんで家族ぐるみで会社を経営しているという状況です。
夫婦間ではそういう仕事の話をしないので、詳しいことはわからないんですけれど。

いさどん:
よくわからないと言いますが、ご主人はそういう立場にいれば、
仕事から得る収入はそんなに少ないわけではないですよね。
そのあたりは把握されていますか?

お母さん:
生活費として月々もらっているだけで。
今住んでいるマンションの支払いや光熱費は、夫の口座から引き落とされています。
収支の管理は夫がしています。

いさどん:
お母さんの英語教室の収入はある程度あるのですか?それはどうしているのですか?

お母さん:
それは食費や子供の学費に充てています。

いさどん:
ということは、家計簿のように何がどこに流れているのか把握しているというよりも、
どんぶり勘定のようになっているということですよね。
そのことは問題ということではないのですが、
家というものは本来もうちょっとしっかりとした柱があって、梁があり、
そういった役割分担によって完成しているものです。

そういうことからしたら、一体全体どこがどう機能しているのかよくわからないというのが、
今の二人の状態です。ですから、家の血液であるお金もそういう状態だということです。
そうすると、ご主人の得た収入はどこに使われているのでしょうか?
どこかにプールされているのでしょうか?

お母さん:
わからないです。

いさどん:
ちょっとこれは余分な話のようですが、
将来この家族がどうしていくのかというプランを練っていくためには、
それぞれから得られたものがどう使われていてどうなっているのかということを把握することによって、
家の方向性が観えてくるものです。
そこに、家族であることの楽しさがあるのだと思います。

お母さん:
そういう話はしないですね。

いさどん:
それは、昔からそうだったんですか?始めは、多少そういう話をしましたか?

お母さん:
そうですね。ただ結婚して夫の家に入ってからは、
二人だけでいた時の関係ががらっと変わったんですね。
夫の実家からの財産分与もあったり、夫の実家との強いつながりの中で、
私もよくわからないまま言われるようにやっていたり。。。
夫ががらっと変わったので、私の中で葛藤が強くありました。

いさどん:
自分たちの家族よりももっと大きなものがあり、
そこではよくわからない役割をしないといけなかった、
そこを詳しく把握せず今までやってきたということですね。

それはこういうことでもあるんですよ。
付き合っていた時の相手の印象と、結婚してからの相手の印象が違うということですよね。

お母さん:
そうなんです。結婚してから夫が実家の諸々を背負った時に、
価値観やものの観方が別人のようになったんです。

いさどん:
きっと、二人だけで付き合っていた時には話し合うことも出来たし、
共通点もあったと思うんです。
ただ、ご主人が実家を背負った時に、
「俺は男だ」とか「女は従え」ということを主張し始めたのだと思うんです。

お母さん:
夫は、「自分の両親のように生きることが幸せなんだ」という価値観を持っているようです。

いさどん:
資産家である両親の家系では、ある程度お金もあり食べていけるものだから、
そこの人たちは自信があるんですよね。
そして、「我が家にふさわしい人になりなさい」という影響を受けてきたのだと思います。

きーちゃん:
話は全然変わるけどね。
パパは「自分が変わらないと、変わらない」と言いながら、
そのことをあまり理解していない気がする。
パパはいつも「自分の言うことを聞いていればいいんだ」と言って、
「学校も行けるんだから」と言ってくるのが辛い。

いさどん:
ということは、お父さんもそういうふうに育ってきたということですね。

お母さん:
私もそう思います。夫の両親の想いを引き継いで育ってきたのだと思います。
でもそれも、さらにおじいさんおばあさんから来ていると思うのですが。

いさどん:
そうですね。

お母さん:
家系で引き継いできたものを守ることが、一つの幸せのモデルのような。
だから、自分の両親に気に入られればOKで、
気に入られないとそれはもう許されないというような価値観を持っています。

いさどん:
そうすると、ご主人も結構辛いと思うんですよ。
子供の頃にもっと自由に育っていれば、
人の顔色を見るということをしなくてもよかったはずなんです。
そのストレスが出ているんですよね。

きーちゃん:
パパもママも辛いでしょ?
だから、私もゆうちゃんも言いたいことが言えないし、言っても聞き入れてくれない。

いさどん:
これは、子供たちの問題ではなく、夫婦の問題ですが、
それは元をただせばご主人の家系から来る問題なんですよね。

さらに、お母さんがなぜこういう夫を選んだのかということもあるんです。
そこにボタンの掛け違いがあります。
この人は本来あなたの対象外の人ですから、選んではいけない人なんです。
相性は悪いですね。
だから、本当の部分を見せず、
カモフラージュした状態でお互いを見せていましたから、
蓋を開けてみたら違っていたということですね。

ご主人の日常の行動についても、あまり把握していないのですか?
あまり関心がないですか?

お母さん:
結婚したばかりの時は聞いていましたが。。。

きーちゃん:
パパは何かあったらママのせいにするし、
ママもパパに言っても仕方がないから、私に色々と言ってくる。
パパは「自分は間違ってないんだ」と思っているし。

いさどん:
結局、話は沢山出るけれど整理整頓して解決せず終わってしまうから、
「どうせ話をしても仕方がない」と、
さらにみんなが話さなくなるということになるんだよね。

お母さん:
この前きーちゃんがみんなに呼びかけ、
これからどうしたらいいのか、家族5人で話をしたんですね。

いさどん:
家族会議を開いたということですね。

お母さん:
それは、きーちゃんがこうなってくれたからなんですよね。

きーちゃん:
今も今までも、私が何か言うと、みんな逃げるようにどこかに行ってしまって、
最終的には「そんなことはくだらない」と言って、話が出来なくて。

いさどん:
この子はしっかりとものを観ていますよね。
この家族の中で一番センサーが働いていると思います。
これは、大切にしないといけないですよ。